枕草子 原文。 枕草子『古今の草子を(古今の草子を御前に置かせ給ひて〜)』の現代語訳と解説 / 古文 by 走るメロス

枕草子REMIX

枕草子 原文

やうやう白くなりゆく山ぎは少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる。 夏は、夜。 月の頃はさらなり。 闇もなほ。 螢の多く飛び違ひたる。 また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。 雨など降るもをかし。 秋は、夕暮。 夕日のさして、山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへあはれなり。 まいて雁などの列ねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし。 日入り果てて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。 冬は、つとめて。 雪の降りたるはいふべきにもあらず。 霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎ熾して、炭もて渡るも、いとつきづきし。 昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりて、わろし。

次の

枕草子『古今の草子を(古今の草子を御前に置かせ給ひて〜)』の現代語訳と解説 / 古文 by 走るメロス

枕草子 原文

やうやう白くなりゆく山ぎは少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる。 夏は、夜。 月の頃はさらなり。 闇もなほ。 螢の多く飛び違ひたる。 また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。 雨など降るもをかし。 秋は、夕暮。 夕日のさして、山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへあはれなり。 まいて雁などの列ねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし。 日入り果てて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。 冬は、つとめて。 雪の降りたるはいふべきにもあらず。 霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎ熾して、炭もて渡るも、いとつきづきし。 昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりて、わろし。

次の

枕草子REMIX

枕草子 原文

枕草子(原文) (一段) 春は曙。 やうやう白くなりゆく、山際(やまぎわ)すこしあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。 夏は夜。 月の頃はさらなり、闇もなほ、螢飛びちがひたる。 雨など降るも、をかし。 秋は夕暮。 夕日のさして、山の端(は)いと近くなりたるに、烏(からす)の寝所(ねどころ)へ行くとて、三つ四つ、二つなど、飛びいそぐさへあはれなり。 まいて雁などのつらねたるが、いとちひさく見ゆる、いとをかし。 日入りはてて、風の音、蟲の音(ね)など、いとあはれなり。 冬はつとめて。 雪の降りたるは、いふべきにもあらず。 霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭もてわたるも、いとつきづきし。 昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶(ひおけ)の火も、白き灰がちになりて、わろし。 (二段) 頃(ころ)は 正月、三月、四五月、七月、八九月、十月、十二月。 すべてをりにつけつつ。 一年ながら、をかし。 正月一日は、まいて、空の景色うらうらと珍しく、かすみこめたるに、世にありとある人は、姿容心ことにつくろひ、君をもわが身をも祝ひなどしたるさま、殊(こと)にをかし。 七日は、雪間の若菜青やかに摘み出でつつ、例はさしもさる物目近からぬ所に もてさわぎ、白馬見んとて、里人は車きよげにしたてて見にゆく。 中の御門の閾ひき入るるほど、頭ども一處にまろびあひて、指櫛も落ち、用意せねば折れなどして、笑ふもまたをかし。 左衞門の陣などに、殿上人あまた立ちなどして、舎人の弓ども取りて、馬ども驚かして笑ふを、僅に見入れたれば、立蔀などの見ゆるに、主殿司、女官などの、行きちがひたるこそをかしけれ。 いかばかりなる人、九重をかく立ち馴すらんなど思ひやらるる中にも、見るはいと狹きほどにて、舎人が顏のきぬもあらはれ、白きもののゆきつかぬ所は、誠に黒き庭に雪のむら消えたる心地して、いと見ぐるし。 馬のあがり騒ぎたるも恐しく覺ゆれば、引き入られてよくも見やられず。 八日、人々よろこびして走りさわぎ、車の音も、つねよりはことに聞えてをかし。 十五日は、もちかゆの節供まゐる。 かゆの木ひき隱して、家の御達、女房などのうかがふを、うたれじと用意して、常に後を心づかひしたる景色もをかしきに、いかにしてげるにかあらん、打ちあてたるは、いみじう興ありとうち笑ひたるも、いと榮々し。 ねたしと思ひたる、ことわりなり。 去年より新しう通ふ壻の君などの、内裏へ參るほどを、心もとなく、所につけて我はと思ひたる女房ののぞき、奧のかたにたたずまふを、前にゐたる人は心得て笑ふを、「あなかまあなかま」と招きかくれど、君見知らず顏にて、おほどかにて居給へり。 「ここなる物とり侍らん」などいひ寄り、はしりうちて逃ぐれば、あるかぎり笑ふ。 男君もにくからず愛敬づきて笑みたる、ことに驚かず、顏少し赤みてゐたるもをかし。 また互に打ちて、男などをさへぞうつめる。 いかなる心にかあらん、泣きはらだち、打ちつる人を呪ひ、まがまがしくいふもをかし。 内裏わたりなど、やんごとなきも、今日はみな亂れて、かしこまりなし。 除目のほどなど、内裏わたりはいとをかし。 雪降りこほりなどしたるに、申文もてありく。 四位五位、わかやかに心地よげなるは、いとたのもしげなり。 老いて頭白きなどが、人にとかく案内いひ、女房の局によりて、おのが身のかしこきよしなど、心をやりて説き聞するを、若き人々は眞似をし笑へど、いかでか知らん。 「よきに奏し給へ、啓し給へ」などいひても、得たるはよし、得ずなりぬるこそ、いとあはれなれ。 三月三日、うらうらとのどかに照りたる。 桃の花の今咲きはじむる。 柳など、いとをかしきこそ更なれ。 それもまだ、まゆにこもりたるこそをかしけれ。 廣ごりたるはにくし。 花も散りたる後はうたてぞ見ゆる。 おもしろく咲きたる櫻を長く折りて、大なる花瓶にさしたるこそをかしけれ。 櫻の直衣に、出袿して、客人にもあれ、御兄の公達にもあれ、そこ近くゐて物などうちいひたる、いとをかし。 そのわたりに、鳥蟲のひたひつきいと美しうて飛びありく、いとをかし。 祭のころはいみじうをかし。 木々のこの葉、まだ繁うはなうて、わかやかに青みたるに、霞も霧もへだてぬ空の景色の、何となくそぞろにをかしきに、少し曇りたる夕つかた、夜など、忍びたる杜鵑の、遠うそら耳かと覺ゆるまで、たどたどしきを聞きつけたらん、何ごこちかはせん。 祭近くなりて、青朽葉、二蓝などのものどもおしまきつつ、細櫃の蓋に入れ、紙などにけしきばかり包みて、行きちがひもて歩くこそをかしけれ。 末濃、村濃、卷染など、常よりもをかしう見ゆ。 童女の頭ばかり洗ひつくろひて、形は皆痿えほころび、打ち亂れかかりたるもあるが、屐子、沓などの緒すげさせ、裏をさせなどもて騒ぎ、いつしかその日にならんと、急ぎ走り歩くもをかし。 怪しう踊りて歩く者どもの、さうぞきたてつれば、いみじく、ちやうざといふ法師などのやうに、ねりさまよふこそをかしけれ。 ほどほどにつけて、親をばの女、姉などの供して、つくろひ歩くもをかし。 (三段) ことごとなるもの 法師の詞。 男女の詞。 下司の詞にはかならず文字あまりしたり。 2008-11-14 23:29:25 (四段) 思はん子を法師になしたらんこそは、いと心苦しけれ。 さるは、いとたのもしきわざを、唯木のはしなどのやうに思ひたらんこそ、いといとほしけれ。 精進物のあしきを食ひ、寐ぬるをも、若きは物もゆかしからん。 女などのある所をも、などか忌みたるやうに、さしのぞかずもあらん。 それをも安からずいふ。 まして驗者などのかたは、いと苦しげなり。 御獄、熊野、かからぬ山なく歩くほどに、恐しき目も見、驗あるきこえ出できぬれば、ここかしこによばれ、時めくにつけて安げもなし。 いたく煩ふ人にかかりて、物怪てうずるも、いと苦しければ、困じてうち眠れば、「ねぶりなどのみして」と咎むるも、いと所狹く、いかに思はんと。 これは昔のことなり。 今樣はやすげなり。 (五段) 大進生昌が家に、宮の出でさせ給ふに、東の門は四足になして、それより御輿は入らせ給ふ。 北の門より女房の車ども、陣屋の居ねば入りなんやと思ひて、髮つきわろき人も、いたくもつくろはず、寄せて下るべきものと思ひあなづりたるに、檳榔毛の車などは、門ちひさければ、さはりてえ入らねば、例の筵道しきておるるに、いとにくく腹だたしけれど、いかがはせん。 殿上人、地下なるも、陣に立ちそひ見るもねたし。 御前に參りて、ありつるやう啓すれば、「ここにも人は見るまじくやは。 などかはさしもうち解けつる」と笑はせ給ふ。 「されど、それは皆めなれて侍れば、よくしたてて侍らんにしこそ驚く人も侍らめ。 さてもかばかりなる家に、車入らぬ門やはあらん。 見えば笑はん」などいふ程にしも、「これまゐらせん」とて、御硯などさしいる。 「いで、いとわろくこそおはしけれ。 などてかその門狹く造りて、住み給ひけるぞ」といへば、笑ひて、「家のほど身のほどに合せて侍るなり」と答ふ。 「されど門の限を、高く造りける人も聞ゆるは」といへば、「あなおそろし」と驚きて、「それは于定國がことにこそ侍るなれ。 ふるき進士などに侍らずば、承り知るべくも侍らざりけり。 たまたまこの道にまかり入りにければ、かうだに辨へられ侍る」といふ。 「その御道もかしこからざめり。 筵道敷きたれば、皆おち入りて騒ぎつるは」といへば、「雨の降り侍れば、實にさも侍らん。 よしよし、また仰せかくべき事もぞ侍る、罷り立ち侍らん」とていぬ。 「何事ぞ、生昌がいみじうおぢつるは」と問はせ給ふ。 「あらず、車の入らざりつることいひ侍る」と申しておりぬ。 同じ局に住む若き人々などして、萬の事も知らず、ねぶたければ皆寢ぬ。 東の對の西の廂かけてある北の障子には、かけがねもなかりけるを、それも尋ねず。 家主なれば、案内をよく知りてあけてけり。 あやしう涸ればみたるものの聲にて、「侍はんにはいかが」と數多たびいふ聲に、驚きて見れば、儿帳の後に立てたる燈臺の光もあらはなり。 障子を五寸ばかりあけていふなりけり。 いみじうをかし。 更にかやうのすきずきしきわざ、ゆめにせぬものの、家におはしましたりとて、無下に心にまかするなめりと思ふもいとをかし。 わが傍なる人を起して、「かれ見給へ、かかる見えぬものあめるを」といへば、頭をもたげて見やりて、いみじう笑ふ。 「あれは誰ぞ、顯證に」といへば、「あらず、家主人、局主人と定め申すべき事の侍るなり」といへば、「門の事をこそ申しつれ、障子開け給へとやはいふ」「なほその事申し侍らん、そこに侍はんはいかにいかに」といへば、「いと見苦しきこと、更にえおはせじ」とて笑ふめれば、「若き人々おはしけり」とて、ひきたてていぬる、後に笑ふこといみじ。 あけぬとならば、唯まづ入りねかし。 消息をするに、よかなりとは誰かはいはんと、げにをかしきに、 つとめて、御前に參りて啓すれば、「さる事も聞えざりつるを、昨夜のことに愛でて、入りにたりけるなめり。 あはれ彼をはしたなく言ひけんこそ、いとほしけれ」と笑はせ給ふ。 姫宮の御かたの童女に、裝束せさすべきよし仰せらるるに、「わらはの袙の上襲は何色に仕う奉るべき」と申すを、又笑ふもことわりなり。 「姫宮の御前のものは、例のやうにては惡氣に候はん。 ちうせい折敷、ちうせい高杯にてこそよく候はめ」と申すを、「さてこそは、上襲著たる童女もまゐりよからめ」といふを、「猶例の人のやうに、かくないひ笑ひそ、いときすくなるものを、いとほしげに」と制したまふもをかし。 中間なるをりに、「大進ものきこえんとあり」と、人の告ぐるを聞し召して、「又なでふこといひて笑はれんとならん」と仰せらるるもいとをかし。 「行きて聞け」とのたまはすれば、わざと出でたれば、「一夜の門のことを中? 123;じて、犬島につかはせ。 只今」と仰せらるれば、集りて狩りさわぐ。 馬の命婦もさいなみて、「乳母かへてん、いとうしろめたし」と仰せらるれば、かしこまりて、御前にも出でず。 犬は狩り出でて、? 123;じ給ふ」といふ。 心うのことや。 翁丸なり。 「忠隆實房なん打つ」といへば、制しに遣るほどに、辛うじてなき止みぬ。 「死にければ門の外にひき棄てつ」といへば、あはれがりなどする夕つかた、いみじげに腫れ、あさましげなる犬のわびしげなるが、わななきありけば、「あはれ丸か、かかる犬やはこのごろは見ゆる」などいふに、翁丸と呼べど耳にも聞き入れず。 それぞといひ、あらずといひ、口々申せば、「右近ぞ見知りたる、呼べ」とて、下なるを「まづとみのこと」とて召せば參りたり。 「これは翁丸か」と見せ給ふに、「似て侍れども、これはゆゆしげにこそ侍るめれ。 また翁丸と呼べば、悦びてまうで來るものを、呼べど寄りこず、あらぬなめり。 それは打ち殺して、棄て侍りぬとこそ申しつれ。 さるものどもの二人して打たんには、生きなんや」と申せば、心うがらせ給ふ。 暗うなりて、物くはせたれど食はねば、あらぬものにいひなして止みぬる。 つとめて、御梳櫛にまゐり、御手水まゐりて、御鏡もたせて御覽ずれば、侍ふに、犬の柱のもとについ居たるを、「あはれ昨日、翁丸をいみじう打ちしかな。 死にけんこそ悲しけれ。 何の身にかこのたびはなりぬらん。 いかにわびしき心地しけん」とうちいふほどに、この寢たる犬ふるひわななきて、涙をただ落しにおとす。 いとあさまし。 さはこれ翁丸にこそありけれ。 よべは隱れ忍びてあるなりけりと、あはれにて、をかしきことかぎりなし。 御鏡をもうちおきて、「さは翁丸」といふに、ひれ伏していみじくなく。 御前にもうち笑はせ給ふ。 人々まゐり集りて、右近内侍召して、かくなど仰せらるれば、笑ひののしるを、うへにも聞し召して、渡らせおはしまして、「あさましう犬などもかかる心あるものなりけり」と笑はせ給ふ。 うへの女房たちなども來りまゐり集りて呼ぶにも、今ぞ立ちうごく。 なほ顏など腫れためり。 123;言殿、櫻の直衣の少しなよらかなるに、濃き紫の指貫、白き御衣ども、うへに濃き綾の、いとあざやかなるを出して參り給へり。 うへのこなたにおはしませば、戸口の前なる細き板敷に居給ひて、ものなど奏し給ふ。 御簾のうちに、女房櫻の唐衣どもくつろかにぬぎ垂れつつ、藤山吹などいろいろにこのもしく、あまた小半蔀の御簾より押し出でたるほど、晝御座のかたに御膳まゐる。 足音高し。 けはひなど、をしをしといふ聲聞ゆ。 うらうらとのどかなる日の景色いとをかしきに、終の御飯もたる藏人參りて、御膳奏すれば、中の戸より渡らせ給ふ。 御供に大? 123;ずとて、いみじうしたりがほに、獨鈷や珠數などもたせて、せみ聲にしぼり出し讀み居たれど、いささか退氣もなく、護法もつかねば、集めて念じゐたるに、男も女も怪しと思ふに、時のかはるまで讀みこうじて、「更につかず、たちね」とて珠數とりかへして、あれと「驗なしや」とうちいひて、額より上ざまに頭さぐりあげて、あくびを己うちして、よりふしぬる。 除目に官得ぬ人の家、今年はかならずと聞きて、はやうありし者どもの、外々なりつる、片田舎に住む者どもなど、皆集り來て、出で入る車の轅もひまなく見え、物まうでする供にも、われもわれもと參り仕うまつり、物食ひ酒飮み、ののしりあへるに、はつる曉まで門叩く音もせず。 「怪し」など耳立てて聞けば、さきおふ聲して上達部など皆出で給ふ。 ものききに、宵より寒がりわななき居りつるげす男など、いと物うげに歩み來るを、をるものどもは、とひだにもえ問はず。 外よりきたる者どもなどぞ、「殿は何にかならせ給へる」など問ふ。 答には、「何の前司にこそは」と、必いらふる。 まことに頼みける者は、いみじう歎かしと思ひたり。 翌朝になりて、隙なくをりつる者も、やうやう一人二人づつすべり出でぬ。 ふるきものの、さもえ行き離るまじきは、來年の國々を手を折りて數へなどして、ゆるぎ歩きたるも、いみじういとほしう、すさまじげなり。 よろしう詠みたりと思ふ歌を、人の許に遣りたるに返しせぬ。 懸想文はいかがせん、それだにをりをかしうなどある返事せぬは、心おとりす。 又さわがしう時めかしき處に、うちふるめきたる人の、おのがつれづれと暇あるままに、昔覺えて、ことなる事なき歌よみして遣せたる。 物のをりの扇、いみじと思ひて、心ありと知りたる人にいひつけたるに、その日になりて、思はずなる繪など書きてえたる。 産養、馬餞などの使に、禄などとらせぬ。 はかなき藥玉、卯槌などもてありく者などにも、なほ必とらすべし。 思ひかけぬことに得たるをば、いと興ありと思ふべし。 これはさるべき使ぞと、心ときめきして來るに、ただなるは、誠にすさまじきぞかし。 壻とりて、四五年までうぶやのさわぎせぬ所。 おとななる子どもあまた、ようせずば、孫などもはひありきぬべき人の親どちの晝寢したる。 傍なる子どもの心地にも、親のひるねしたるは、よりどころなくすさまじくぞあるべき。 寢起きてあぶる湯は、腹だたしくさへこそ覺ゆれ。 十二月の晦日のなが雨、一日ばかりの精進の懈怠とやいふべからん。 八月のしらがさね。 乳あへずなりぬる乳母。 (二三段) たゆまるるもの 精進の日のおこなひ。 日遠きいそぎ。 寺に久しくこもりたる。 (二四段) 人にあなづらるるもの 家の北おもて。 あまり心よしと人に知られたる人。 年老いたるおきな。 又あはあはしき女。 築土のくづれ。 (二五段) にくきもの 急ぐ事あるをりに長言する客人。 あなづらはしき人ならば、「後に」などいひても追ひやりつべけれども、さすがに心はづかしき人、いとにくし。 硯に髮の入りてすられたる。 また墨の中に石こもりて、きしきしときしみたる。 俄にわづらふ人のあるに、驗者もとむるに、例ある所にはあらで、外にある、尋ねありくほどに、待遠にひさしきを、辛うじて待ちつけて、悦びながら加持せさするに、このごろ物怪に困じにけるにや、ゐるままに即ねぶり聲になりたる、いとにくし。 何でふことなき人の、すずろにえがちに物いたういひたる。 火桶すびつなどに、手のうらうちかへし、皺おしのべなどしてあぶりをるもの。 いつかは若やかなる人などの、さはしたりし。 老ばみうたてあるものこそ、火桶のはたに足をさへもたげて、物いふままに、おしすりなどもするらめ。 さやうのものは、人のもとに來てゐんとする所を、まづ扇して塵拂ひすてて、ゐも定まらずひろめきて、狩衣の前、下ざまにまくり入れてもゐるかし。 かかることは、いひがひなきものの際にやと思へど、少しよろしき者の式部大夫、駿河前司などいひしがさせしなり。 また酒飮みて、赤き口を探り、髯あるものはそれを撫でて、盃人に取らするほどのけしき、いみじくにくしと見ゆ。 また「飮め」などいふなるべし、身ぶるひをし、頭ふり、口わきをさへひきたれて、「わらはべのこうどのに參りて」など、? 123;度やうち散らしぬる、にくし。 家にても宮仕所にても、逢はでありなんと思ふ人の來るに、虚寐をしたるを、わが許にあるものどもの起しによりきては、いぎたなしと思ひ顏に、ひきゆるがしたるいとにくし。 新參のさしこえて、物しり顏にをしへやうなる事いひ、うしろみたる、いとにくし。 わが知る人にてあるほど、はやう見し女の事、譽めいひ出しなどするも、過ぎてほど經にけれど、なほにくし、ましてさしあたりたらんこそ思ひやらるれ。 されどそれは、さしもあらぬやうもありかし。 はなひて誦文する人。 大かた家の男しうならでは、高くはなひたるもの、いとにくし。 蚤もいとにくし。 衣の下にをどりありきて、もたぐるやうにするも、また犬のもろ聲に長々となきあげたる。 まがまがしくにくし。 (二六段) 心ときめきするもの 雀のこがひ。 兒あそばする所の前わたりたる。 よき薫物たきて一人臥したる。 唐鏡の少しくらき見たる。 よき男の車とどめて物いひ案内せさせたる。 頭洗ひ化粧じて、香にしみたる衣著たる。 殊に見る人なき所にても、心のうちはなほをかし。 待つ人などある夜、雨の脚、風の吹きゆるがすも、ふとぞおどろかるる。 (二七段) すぎにしかたのこひしきもの 枯れたる葵。 雛あそびの? 123;、葡萄染などのさいでの、おしへされて、草紙の中にありけるを見つけたる。 また折からあはれなりし人の文、雨などの降りて徒然なる日さがし出でたる。 去年のかはぼり。 月のあかき夜。 (二九段) 檳榔毛はのどやかにやりたる。 急ぎたるは輕々しく見ゆ。 網代は走らせたる。 人の門より渡りたるを、ふと見るほどもなく過ぎて、供の人ばかり走るを、誰ならんと思ふこそをかしけれ。 ゆるゆると久しく行けばいとわろし。 牛は額いとちひさく白みたるが、腹のした、足のしも、尾のすそ白き。 馬は紫の斑づきたる。 いみじく黒きが、足肩のわたりなどに、白き處、うす紅梅の毛にて、髮尾などもいとしろき、實にゆふかみともいひつべき。 牛飼は大にて、髮赤白髮にて、顏の赤みてかどかどしげなる。 雜色隨身はほそやかなる。 よき男も、なほ若きほどは、さるかたなるぞよき。 いたく肥えたるは、ねぶたからん人と思はる。 小舎人はちひさくて、髮のうるはしきが、すそさわらかに、聲をかしうて、畏りて物などいひたるぞ、りやうりやうじき。 猫はうへのかぎり黒くて、他はみな白からん。 2008-11-14 23:36:55 (三〇段) 説經師は顏よき、つとまもらへたるこそ、その説く事のたふとさも覺ゆれ。 外目しつればふと忘るるに、にくげなるは罪や得らんと覺ゆ。 この詞はとどむべし。 少し年などのよろしきほどこそ、かやうの罪はえがたの詞かき出でけめ。 今は罪いとおそろし。 又たふときこと、道心おほかりとて、説經すといふ所に、最初に行きぬる人こそ、なほこの罪の心地には、さしもあらで見ゆれ。 藏人おりたる人、昔は、御前などいふこともせず、その年ばかり、内裏あたりには、まして影も見えざりける。 今はさしもあらざめる。 藏人の五位とて、それをしもぞ忙しうつかへど、なほ名殘つれづれにて、心一つは暇ある心地ぞすべかめれば、さやうの所に急ぎ行くを、一たび二たび聞きそめつれば、常にまうでまほしくなりて、夏などのいとあつきにも、帷子いとあざやかに、薄二? 123;の直衣指貫、淺黄の帷子をぞすかし給へる。 少しおとなび給へるは、青にびのさしぬき、白き袴もすずしげなり。 安親の宰相なども若やぎだちて、すべてたふときことの限にもあらず、をかしき物見なり。 廂の御簾高くまき上げて、長押のうへに上達部奧に向ひて、ながながと居給へり。 そのしもには殿上人、わかき公達、かりさうぞく直衣なども、いとをかしくて、居もさだまらず、ここかしこに立ちさまよひ、あそびたるもいとをかし。 實方の兵衞佐、長明の侍從など、家の子にて、今すこしいでいりなれたり。 まだ童なる公達など、いとをかしうておはす。 少し日たけたるほどに、三位中將とは關白殿をぞ聞えし、香の羅、二? 123;言の御ありさま、常よりも勝りて清げにおはするさまぞ限なきや。 上達部の御名など書くべきにもあらぬを。 誰なりけんと、少しほど經れば、色あひはなばなといみじく、匂あざやかに、いづれともなき中の帷子を、これはまことに、ただ直衣一つを著たるやうにて、常に車のかたを見おこせつつ、物などいひおこせ給ふ。 をかしと見ぬ人なかりけんを、 後にきたる車の隙もなかりければ、池にひき寄せてたてたるを見給ひて、實方の君に、「人の消息つきづきしくいひつべからんもの一人」と召せば、いかなる人にかあらん、選りて率ておはしたるに、「いかがいひ遣るべき」と、近く居給へるばかりいひ合せて、やり給はん事は聞えず。 いみじくよそひして、車のもとに歩みよるを、かつは笑ひ給ふ。 後のかたによりていふめり。 久しく立てれば、「歌など詠むにやあらん、兵衞佐返しおもひまうけよ」など笑ひて、いつしか返事聞かんと、おとな上達部まで、皆そなたざまに見やり給へり。 實に顯證の人々まで見やりしもをかしうありしを、 返事ききたるにや、すこし歩みくるほどに、扇をさし出でて呼びかへせば、歌などの文字をいひ過ちてばかりこそ呼びかへさめ。 久しかりつるほどに、あるべきことかは、なほすべきにもあらじものをとぞ覺えたる。 近く參りつくも心もとなく、「いかにいかに」と誰も問ひ給へどもいはず。 123;言は人よりもけにのぞきて、「いかがいひつる」との給ふめれば、三位中將、「いとなほき木をなん押し折りためる」と聞え給ふに、うち笑ひ給へば、皆何となくさと笑ふ聲、聞えやすらん。 123;の織物、蘇枋の羅のうはぎなどにて、しりにすりたる裳、やがて廣げながらうち懸けなどしたるは、何人ならん。 何かは、人のかたほならんことよりは、實にと聞えて、なかなかいとよしとぞ覺ゆる。 朝座の講師清範、高座のうへも光滿ちたる心地して、いみじくぞあるや。 暑さのわびしきにそへて、しさすまじき事の、今日すぐすまじきをうち置きて、唯少し聞きて歸りなんとしつるを、敷竝に集ひたる車の奧になんゐたれば、出づべきかたもなし。 朝の講はてなば、いかで出でなんとて、前なる車どもに消息すれば、近くたたんうれしさにや、はやばやと引き出であけて出すを見給ふ。 いとかしがましきまで人ごといふに、老上達部さへ笑ひにくむを、ききも入れず、答もせで狹がり出づれば、權中? 123;言、「何かめでたからん、いとにくし、ゆゆしきものにこそあなれ」とのたまひけるこそをかしけれ。 さてその二十日あまりに、中? 123;の指貫、あるかなきかの香染の狩衣、白きすずし、紅のいとつややかなるうちぎぬの、霧にいたくしめりたるをぬぎ垂れて、鬢の少しふくだみたれば、烏帽子の押し入れられたるけしきもしどけなく見ゆ。 朝顏の露落ちぬさきに文書かんとて、道のほども心もとなく、おふの下草など口ずさびて、わがかたへ行くに、格子のあがりたれば、御簾のそばをいささかあげて見るに、起きていぬらん人もをかし。 露をあはれと思ふにや、しばし見たれば、枕がみのかたに、朴に紫の紙はりたる扇、ひろごりながらあり。 檀紙の疊紙のほそやかなるが、花か紅か、少しにほひうつりたるも儿帳のもとに散りぼひたる。 人のけはひあれば、衣の中より見るに、うち笑みて長押におしかかりゐたれば、はぢなどする人にはあらねど、うちとくべき心ばへにもあらぬに、ねたうも見えぬるかなと思ふ。 「こよなき名殘の御あさいかな」とて、簾の中に半ばかり入りたれば、「露よりさきなる人のもどかしさに」といらふ。 をかしき事とりたてて書くべきにあらねど、かく言ひかはすけしきどもにくからず。 枕がみなる扇を、我もちたるしておよびてかき寄するが、あまり近う寄りくるにやと心ときめきせられて、今少し引き入らるる。 取りて見などして、疎くおぼしたる事などうちかすめ恨みなどするに、あかうなりて、人の聲々し、日もさし出でぬべし。 霧の絶間見えぬほどにと急ぎつる文も、たゆみぬるこそうしろめたけれ。 でぬる人も、いつの程にかと見えて、萩の露ながらあるにつけてあれど、えさし出でず。 香のかのいみじうしめたる匂いとをかし。 あまりはしたなき程になれば、立ち出でて、わがきつる處もかくやと思ひやらるるもをかしかりぬべし。 (三四段) 木の花は 梅の濃くも薄くも紅梅。 櫻の花びらおほきに、葉色こきが、枝ほそくて咲きたる。 藤の花、しなひ長く色よく咲きたる、いとめでたし。 卯の花は品おとりて何となけれど、咲く頃のをかしう、杜鵑のかげにかくるらんと思ふにいとをかし。 祭のかへさに、紫野のわたり近きあやしの家ども、おどろなる垣根などに、いと白う咲きたるこそをかしけれ。 青色のうへに白き單襲かづきたる、青朽葉などにかよひていとをかし。 四月のつごもり、五月のついたちなどのころほひ、橘の濃くあをきに、花のいとしろく咲きたるに、雨のふりたる翌朝などは、世になく心あるさまにをかし。 花の中より、實のこがねの玉かと見えて、いみじくきはやかに見えたるなど、あさ露にぬれたる櫻にも劣らず、杜鵑のよすがとさへおもへばにや、猶更にいふべきにもあらず。 梨の花、世にすさまじく怪しき物にして、目にちかく、はかなき文つけなどだにせず、愛敬おくれたる人の顏など見ては、たとひにいふも、實にその色よりしてあいなく見ゆるを、唐土にかぎりなき物にて、文にも作るなるを、さりともあるやうあらんとて、せめて見れば、花びらのはしに、をかしきにほひこそ、心もとなくつきためれ。 楊貴妃、皇帝の御使に逢ひて泣きける顏に似せて、梨花一枝春の雨を帶びたりなどいひたるは、おぼろけならじと思ふに、猶いみじうめでたき事は類あらじと覺えたり。 桐の花、紫に咲きたるはなほをかしきを、葉のひろごり、さまうたてあれども、又他木どもとひとしう言ふべきにあらず。 唐土にことごとしき名つきたる鳥の、これにしも住むらん、心ことなり。 まして琴に作りてさまざまなる音の出でくるなど、をかしとは尋常にいふべくやはある。 いみじうこそはめでたけれ。 木のさまぞにくげなれど、樗の花いとをかし。 かればなに、さまことに咲きて、かならず五月五日にあふもをかし。 (三五段) 池は 勝間田の池。 盤余の池。 にえのの池、初瀬に參りしに、水鳥のひまなくたちさわぎしが、いとをかしく見えしなり。 水なしの池、あやしうなどて附けけるならんといひしかば、五月など、すべて雨いたく降らんとする年は、この池に水といふ物なくなんある、又日のいみじく照る年は、春のはじめに水なん多く出づるといひしなり。 無下になく乾きてあらばこそさもつけめ、出づるをりもあるなるを、一すぢにつけけるかなと答へまほしかりし。 猿澤の池、采女の身を投げけるを聞しめして、行幸などありけんこそいみじうめでたけれ。 ねくたれ髮をと人丸が詠みけんほど、いふもおろかなり。 御まへの池、又何の意につけけるならんとをかし。 鏡の池。 狹山の池、みくりといふ歌のをかしく覺ゆるにやあらん。 こひぬまの池。 原の池、玉藻はな刈りそといひけんもをかし。 ますだの池。 (三六段) せちは 五月にしくはなし。 菖蒲蓬などのかをりあひたるもいみじうをかし。 九重の内をはじめて、いひしらぬ民の住家まで、いかでわがもとに繁くふかんと葺きわたしたる、猶いとめづらしく、いつか他折はさはしたりし。 空のけしきの曇りわたりたるに、后宮などには、縫殿より、御藥玉とていろいろの糸をくみさげて參らせたれば、御几帳たてまつる母屋の柱の左右につけたり。 九月九日の菊を、綾と生絹のきぬに包みて參らせたる、同じ柱にゆひつけて、月ごろある藥玉取り替へて捨つめる。 又藥玉は菊のをりまであるべきにやあらん。 されどそれは皆糸をひき取りて物ゆひなどして、しばしもなし。 御節供まゐり、わかき人々は菖蒲のさしぐしさし、物忌つけなどして、さまざま唐衣、汗衫、ながき根、をかしきをり枝ども、村濃の組して結びつけなどしたる、珍しういふべきことならねどいとをかし。 さても春ごとに咲くとて、櫻をよろしう思ふ人やはある。 辻ありく童女の、ほどほどにつけては、いみじきわざしたると、常に袂をまもり、人に見くらべ えもいはず興ありと思ひたるを、そばへたる小舎人童などにひきとられて、泣くもをかし。 紫の紙に樗の花、青き紙に菖蒲の葉、細うまきてひきゆひ、また白き紙を根にしてゆひたるもをかし。 いと長き根など文の中に入れなどしたる人どもなども、いと艶なる返事かかんといひ合せかたらふどちは、見せあはしなどする、をかし。 人の女、やんごとなき所々に御文聞え給ふ人も、今日は心ことにぞなまめかしうをかしき。 夕暮のほどに杜鵑の名のりしたるも、すべてをかしういみじ。 (三七段) 木は 桂。 そばの木、はしたなき心地すれども、花の木ども散りはてて、おしなべたる緑になりたる中に、時もわかず濃き紅葉のつやめきて、思ひかけぬ青葉の中よりさし出でたる、めづらし。 檀更にもいはず。 そのものともなけれど、やどり木といふ名いとあはれなり。 榊、臨時の祭、御神樂のをりなどいとをかし。 世に木どもこそあれ、神の御前の物といひはじめけんも、とりわきをかし。 くすの木は、木立おほかる所にも殊にまじらひたてらず、おどろおどろしき思ひやりなどうとましきを、千枝にわかれて戀する人の例にいはれたるぞ、誰かは數を知りていひ始めけんとおもふにをかし。 檜、人ぢかからぬものなれど、みつばよつばの殿づくりもをかし。 五月に雨の聲まねぶらんもをかし。 楓の木、ささやかなるにも、もえ出でたる梢の赤みて、同じかたにさし廣ごりたる葉のさま、花もいと物はかなげにて、むしなどの枯れたるやうにてをかし。 あすはひの木、この世近くも見えきこえず、御嶺に詣でて歸る人など、しか持てありくめる。 枝ざしなどのいと手ふれにくげに荒々しけれど、何の意ありてあすはひの木とつけけん、あぢきなき兼言なりや。 誰にたのめたるにかあらんと思ふに、知らまほしうをかし。 ねずもちの木、人なみなみなるべき樣にもあらねど、葉のいみじうこまかに小さきがをかしきなり。 樗の木。 山梨の木。 椎の木は、常磐木はいづれもあるを、それしも葉がへせぬ例にいはれたるもをかし。 白樫などいふもの、まして深山木の中にもいと氣遠くて、三位二位のうへのきぬ染むる折ばかりぞ、葉をだに人の見るめる。 めでたき事、をかしき事にとり出づべくもあらねど、いつとなく雪の降りたるに見まがへられて、素盞嗚尊の出雲國におはしける御事を思ひて、人丸が詠みたる歌などを見る、いみじうあはれなり。 いふ事にても、をりにつけても、一ふしあはれともをかしとも聞きおきつる物は、草も木も鳥蟲も、おろかにこそ覺えね。 楪のいみじうふさやかにつやめきたるは、いと青う清げなるに、思ひかけず似るべくもあらず。 莖の赤うきらきらしう見えたるこそ、賤しけれどもをかしけれ。 なべての月頃はつゆも見えぬものの、十二月の晦日にしも時めきて、亡人のくひ物にもしくにやとあはれなるに、又齡延ぶる齒固の具にもしてつかひためるは、いかなるにか。 紅葉せん世やといひたるもたのもし。 柏木いとをかし。 葉守の神のますらんもいとかしこし。 兵衞佐、尉などをいふらんもをかし。 すがたなけれど、椶櫚の木、からめきて、わろき家のものとは見えず。 (三八段) 鳥は 他處の物なれど、鸚鵡いとあはれなり。 人のいふらんことをまねぶらんよ。 みこ鳥。 山鳥は友を戀ひて鳴くに、鏡を見せたれば慰むらん、いとあはれなり。 谷へだてたるほどなどいと心ぐるし。 鶴はこちたきさまなれども、鳴く聲雲井まで聞ゆらん、いとめでたし。 頭赤き雀斑。 斑鳩の雄。 鷺はいと見る目もみぐるし。 まなこゐなども、うたて萬になつかしからねど、万木の森にひとりは寢じと、爭ふらんこそをかしけれ。 水鳥は鴛鴦いとあはれなり。 互に居かはりて、羽のうへの霜を拂ふらんなどいとをかし。 川千鳥は友まどはすらんこそ。 雁の聲は遠く聞えたるあはれなり。 鴨は羽の霜うち拂ふらんと思ふにをかし。 鶯は文などにもめでたき物につくり、聲よりはじめて、さまかたちもさばかり貴に美しきほどよりは、九重の内に鳴かぬぞいとわろき。 人のさなんあるといひしを、さしもあらじと思ひしに、十年ばかり侍ひて聞きしに、實に更に音もせざりき。 さるは竹も近く、紅梅もいとよく通ひぬべきたよりなりかし。 まかでて聞けば、あやしき家の見どころもなき梅などには、花やかにぞ鳴く。 夜なかぬもいぎたなき心地すれども、今はいかがせん。 夏秋の末まで老聲に鳴きて、むしくひなど、ようもあらぬものは名をつけかへていふぞ、口惜しくすごき心地する。 それも雀などのやうに、常にある鳥ならば、さもおぼゆまじ。 春なくゆゑこそはあらめ。 年立ちかへるなど、をかしきことに、歌にも文にも作るなるは、なほ春のうちならましかば、いかにをかしからまし。 人をも人げなう、世のおぼえあなづらはしうなりそめにたるをば、謗りやはする。 鳶、烏などのうへは、見いれ聞きいれなどする人、世になしかし。 さればいみじかるべきものとなりたればと思ふに、心ゆかぬ心地するなり、祭のかへさ見るとて、雲林院、知足院などの前に車をたてたれば、杜鵑もしのばぬにやあらん鳴くに、いとようまねび似せて、木高き木どもの中に、諸聲に鳴きたるこそさすがにをかしけれ。 杜鵑は猶更にいふべきかたなし。 いつしかしたり顏にも聞え、歌に、卯の花、花橘などにやどりをして、はたかくれたるも、ねたげなる心ばへなり、五月雨の短夜に寢ざめをして、いかで人よりさきに聞かんとまたれて、夜深くうち出でたる聲の、らうらうじく愛敬づきたる、いみじう心あくがれ、せんかたなし。 六月になりぬれば音もせずなりぬる、すべて言ふもおろかなり。 夜なくもの、すべていづれもいづれもめでたし。 兒どものみぞさしもなき。 (三九段) あてなるもの 薄色に白重の汗袗。 かりのこ。 削氷のあまづらに入りて、新しき鋺に入りたる。 水晶の珠數。 藤の花。 梅の花に雪のふりたる。 いみじう美しき兒の覆盆子くひたる。 (四〇段) 蟲は 鈴蟲。 われから。 蓑蟲いとあはれなり。 鬼の生みければ、親に似て、これもおそろしき心地ぞあらんとて、親のあしき衣ひき著せて、「今秋風吹かんをりにぞこんずる、侍てよ」といひて逃げていにけるも知らず、風の音聞き知りて、八月ばかりになれば、ちちよちちよとはかなげに鳴く、いみじくあはれなり。 茅蜩、叩頭蟲またあはれなり。 さる心に道心おこして、つきありくらん。 又おもひかけず暗き所などにほとめきたる、聞きつけたるこそをかしけれ。 蠅こそにくきもののうちに入れつべけれ。 愛敬なくにくきものは、人々しう書き出づべきもののやうにあらねど、萬の物にゐ、顏などにぬれたる足して居たるなどよ。 人の名につきたるは必かたし。 夏蟲いとをかしく廊のうへ飛びありく、いとをかし。 蟻はにくけれど、輕びいみじうて、水のうへなどをただ歩みありくこそをかしけれ。 (四一段) 七月ばかりに、風のいたう吹き、雨などのさわがしき日、大かたいと涼しければ、扇もうち忘れたるに、汗の香少しかかへたる衣の薄き引きかづきて、晝寢したるこそをかしけれ。 (四二段) にげなきもの 髮あしき人のしろき綾の衣著たる。 しじかみたる髮に葵つけたる。 あしき手を赤き紙に書きたる。 下衆の家に雪の降りたる。 また月のさし入りたるもいとくちをし。 月のいとあかきに、やかたなき車にあひたる。 又さる車にあめうしかけたる。 老いたるものの腹たかくて喘ぎありく。 また若き男もちたる、いと見ぐるしきに、他人の許に行くとて妬みたる。 老いたる男の寢惑ひたる。 又さやうに髯がちなる男の椎つみたる。 齒もなき女の梅くひて酸がりたる。 下衆の紅の袴著たる、このごろはそれのみこそあめれ。 靱負佐の夜行狩衣すがたも、いといやしげなり。 また人に恐ぢらるるうへの衣はたおどろおどろしく、たちさまよふも、人見つけばあなづらはし。 「嫌疑の者やある」と戲にもとがむ。 (四三段) 廊に人とあまたゐて、ありく者ども見、やすからず呼び寄せて、ものなどいふに、清げなる男、小舎人童などの、よき裏袋に衣どもつつみて、指貫の腰などうち見えたる。 袋に入りたる弓、矢、楯、鉾、劍などもてありくを「誰がぞ」と問ふに、ついゐて某殿のといひて行くはいとよし。 氣色ばみやさしがりて、「知らず」ともいひ、聞きも入れでいぬる者は、いみじうぞにくきかし。 月夜に空車ありきたる。 清げなる男のにくげなる妻もちたる。 髯黒ににくげなる人の年老いたるが、物がたりする人の兒もてあそびたる。 (四四段) 主殿司こそなほをかしきものはあれ。 下女のきははさばかり羨しきものはなし。 よき人にせさせまほしきわざなり。 若くて容貌よく、容體など常によくてあらんは、ましてよからんかし。 年老いて物の例など知りて、おもなきさましたるもいとつきづきしうめやすし。 主殿司の顏、愛敬づきたらんをもたりて、裝束時にしたがひて、唐衣など今めかしうて、ありかせばやとこそ覺ゆれ。 (四五段) 男はまた隨身こそあめれ。 いみじく美々しくをかしき公達も、隨身なきはいとしらじらし。 辨などをかしくよき官と思ひたれども、下襲のしり短くて、隨身なきぞいとわろきや。 (四六段) 職の御曹司の西面の立蔀のもとにて、頭辨の、人と物をいと久しくいひたち給へれば、さし出でて、「それは誰ぞ」といへば、「辨の内侍なり」との給ふ。 「何かはさもかたらひ給ふ。 大辨見えば、うちすて奉りていなんものを」といへば、いみじく笑ひて、「誰かかかる事をさへいひ聞かせけん、それさなせそとかたらふなり」との給ふ。 いみじく見えて、をかしき筋などたてたる事はなくて、ただありなるやうなるを、皆人さのみ知りたるに、なほ奧ふかき御心ざまを見知りたれば、「おしなべたらず」など御前にも啓し、又さしろしめしたるを、常に、「女はおのれを悦ぶ者のためにかほづくりす、士はおのれを知れる人のために死ぬといひたる」といひ合せつつ申し給ふ。 「遠江の濱やなぎ」などいひかはしてあるに、わかき人々は唯いひにくみ、見ぐるしき事どもなどつくろはずいふに、「この君こそうたて見にくけれ。 他人のやうに讀經し、歌うたひなどもせず、けすさまじ」など謗る。 更にこれかれに物いひなどもせず、「女は目はたてざまにつき、眉は額におひかかり、鼻は横ざまにありとも、ただ口つき愛敬づき、頤のした、頸などをかしげにて、聲にくからざらん人なん思はしかるべき。 とはいひながら、なほ顏のいとにくげなるは心憂し」との給へば、まいて頤ほそく愛敬おくれたらん人は、あいなうかたきにして、御前にさへあしう啓する。 物など啓せさせんとても、その初いひそめし人をたづね、下なるをも呼びのぼせ、局にも來ていひ、里なるには文書きても、みづからもおはして、「遲く參らば、さなん申したると申しに參らせよ」などの給ふ。 「その人の侍ふ」などいひ出づれど、さしもうけひかずなどぞおはする。 「あるに隨ひ、定めず、何事ももてなしたるをこそ、よき事にはすれ」とうしろみ聞ゆれど、「わがもとの心の本性」とのみの給ひつつ、「改らざるものは心なり」との給へば、「さて憚りなしとはいかなる事をいふにか」と怪しがれば、笑ひつつ、「中よしなど人々にもいはるる。 かうかたらふとならば何か恥づる、見えなどもせよかし」との給ふを、「いみじくにくげなれば、さあらんはえ思はじとの給ひしによりて、え見え奉らぬ」といへば、「實ににくくもぞなる。 さらばな見えそ」とて、おのづから見つべきをりも顏をふたぎなどして、まことに見給はぬも、眞心にそらごとし給はざりけりと思ふに、三月晦日頃、冬の直衣の著にくきにやあらん、うへの衣がちにて、殿上の宿直すがたもあり。 翌朝日さし出づるまで、式部のおもとと廂に寢たるに、奧の遣戸をあけさせ給ひて、うへの御前、宮の御前出でさせ給へれば、起きもあへずまどふを、いみじく笑はせ給ふ。 唐衣を髮のうへにうち著て、宿直物も何もうづもれながらある上におはしまして、陣より出で入るものなど御覽ず。 殿上人のつゆ知らで、より來て物いふなどもあるを、「けしきな見せそ」と笑はせ給ふ。 さてたたせ給ふに、「二人ながらいざ」と仰せらるれど、今顏などつくろひてこそとてまゐらず。 入らせ給ひて、なほめでたき事どもいひあはせてゐたるに、南の遣戸のそばに、儿帳の手のさし出でたるにさはりて、簾の少しあきたるより、黒みたるものの見ゆれば、のりたかが居たるなめりと思ひて、見も入れで、なほ事どもをいふに、いとよく笑みたる顏のさし出でたるを、「のりたかなめり、そは」とて見やりたれば、あらぬ顏なり。 あさましと笑ひさわぎて几帳ひき直しかくるれど、頭辨にこそおはしけれ。 見え奉らじとしつるものをと、いとくちをし。 もろともに居たる人は、こなたに向きてゐたれば、顏も見えず。 立ち出でて、「いみじく名殘なく見つるかな」との給へば、「のりたかと思ひ侍れば、あなづりてぞかし。 などかは見じとの給ひしに、さつくづくとは」といふに、「女は寢おきたる顏なんいとよきといへば、ある人の局に行きてかいばみして、又もし見えやするとて來りつるなり。 まだうへのおはしつる折からあるを、え知らざりけるよ」とて、それより後は、局のすだれうちかづきなどし給ふめり。 (四七段) 馬は、いと黒きが、ただいささか白き所などある。 紫の紋つきたる。 薄紅梅の毛にて、髪、尾などいと白き。 げに、ゆふかみとも言ひつべし。 黒きが、足四つ白きも、いとをかし。 2008-11-14 23:40:13 (四八段) 牛は、額はいと小さく白みたるが、腹の下、足、尾の裾などはやがて白き。 (四九段) 猫は、上の限り黒くて、腹いと白き。 (五〇段) 雑色、随身は、すこしやせて細やかなる。 よき男も、なほ若きほどは、さる方なるぞ、よき。 いたく肥えたるは、寝ねぶたからむと見ゆ。 (五一段) 小舎人童は、小さくて、髪いとうるはしきが、裾さはらかに、すこし色なるが、声をかしうて、かしこまりてものなど言ひたるぞ、らうらうじき。 (五二段) 牛飼は、大きにて、髪あららかなるが、顔赤みて、かどかどしげなる。 (五三段) 殿上のなだいめんこそ猶をしけれ。 御前に人さぶらふをりは、やがて問ふもをかし。 足音どもしてくづれ出づるを、うへの御局の東面に、耳をとなへて聞くに、知る人の名のりには、ふと胸つぶるらんかし。 又ありともよく聞かぬ人をも、この折に聞きつけたらんは、いかが覺ゆらん。 名のりよしあし、聞きにくく定むるもをかし。 はてぬなりと聞くほどに、? 123;口にさへ笑はる。 御厨子所の御膳棚といふものに、沓おきて、はらへいひののしるを、いとほしがりて、「誰が沓にかあらん、え知らず」と主殿司人々のいひけるを、「やや方弘がきたなき物ぞや」とりに來てもいとさわがし。 (五四段) わかくてよろしき男の、げす女の名をいひなれて呼びたるこそ、いとにくけれ。 知りながらも、何とかや、かたもじは覺えでいふはをかし。 宮仕所の局などによりて、夜などぞ、さおぼめかんは惡しかりぬべけれど、主殿司、さらぬ處にては、侍、藏人所にあるものを率て行きてよばせよかし、てづからは聲もしるきに。 はしたもの、わらはべなどはされどよし。 (五五段) わかき人と兒は肥えたるよし。 受領などおとなだちたる人は、ふときいとよし。 (五六段) ちごは、あやしき弓、しもとだちたる物などささげて遊びたる、いとうつくし。 車など、とどめて、抱き入れて見まほしくこそあれ。 また、さて行くに、薫物 たきもの の香、いみじうかかへたるそ、いとをかしけれ。 (五七段) よき家の中門あけて、檳榔毛の車の白きよげなるに、蘇枋の下簾、にほひいときよらかにて、榻 しぢ にうち掛けたるこそ、めでたけれ。 厨女 くりやめ のきよげなるが、さし出でて、「なにがし殿の人やさぶらふ」など言ふも、をかし。 (五八段)? 123;。 布留の? 123;は熊野にあるがあはれなるなり。 123;はいかにかしがましく怖しからん。 (五九段) 川は 飛鳥川、淵瀬さだめなくはかなからむといとあはれなり。 大井川。 水無瀬川。 耳敏川、また何事をさしもさかしく聞きけんとをかし。 音無川、思はずなる名とをかしきなり。 細谷川。 玉星川。 貫川、澤田川、催馬樂などのおもひはするなるべし。 なのりその川。 名取川もいかなる名を取りたるにかと聞かまほし。 吉野川。 あまの川、このしたにもあるなり。 七夕つめに宿からんと業平が詠みけんも、ましてをかし。

次の